*ディアキラ*




離れに付いた。襖は閉まっている。部屋に明かりが付いている様子はない。
「キラ?入るぞ?」
誰に対してだか分からないが、疚しい気がする。自然と呼びかける声も小さくなり、襖もそろりそろりと音がしないように開ける。これでは間男である。
キラは眠っていた。先ほどとは違って、ちゃんと全身布団に乗っている。暑いわけではないはずだが、掛け布団から足が片方飛び出ている。Tシャツの裾は捲れ上がり、白い腹が目に眩しい。寝相がわるいのか。
「失礼しますよ〜」
キラは寝ているし、他の誰がいるわけでもないが、ディアッカはそう言った。今自分がしようとしている行為を、真面目にやってしまうのは何だか良くないと思う。真剣になってはいけないと、ディアッカの中の何かが警告しているのだ。
片足の乗っている掛け布団をそろそろと引き抜く。それを脇に置いてから、ディアッカはおもむろにキラに覆いかぶさった。健やかな寝顔だ。口が開いている。ふっくらした唇は、おいしそうに見える。
チュッと音を立て下唇をついばんでみた。
キラは起きない。
額にかかっている髪の毛をかきあげるように、頭をなぜる。思ったより髪は柔らかい。丸見えになった額に口付ける。そのまま唇は瞼をつたって、鼻に行き着いた。鼻の天辺をチロリとなめる。
キラはまだ起きない。
頬を撫でる。ふんわりとした曲線を描く頬は、すべすべとして触り心地がいい。手のひらで頬を覆ったまま、親指が唇をなぞる。口紅の付いていない唇は、ねっとりとした抵抗を伴わず、ただ柔らかさだけを伝えてくる。
「ん〜。」
キラの鼻からうめくような声が漏れた。くすぐったいのだろうか。
ディアッカは、その声に誘われるように、自分の唇をキラのそれにぴったりとくっつけた。始めからほんの少し開いていた唇は、すんなりと舌を受け入れる。歯列をなぞり奥に引っ込んでいるキラの舌を引き出して舐める。
キスとは、こんなに心地よいものだったろうかと、その感触を味わいながらディアッカは考える。
ディアッカはキスに没頭して、瞳を閉じていた。だから、キラが目を覚ましたことに気付かなかった。
パン!景気のいい音がして、ディアッカの頬がはたかれた。突然の事で、ディアッカは何が起こったか理解できず、硬直して一つだけ瞬きをした。
「どいてよ。」
自分の下から、ものすごく不機嫌な声が聞こえた。
「キラ?目ぇさめたのか?」
「早くどいて。」
尋常ではないその声音に、ディアッカは従う以外できることはなかった。
ディアッカは起き上がり、何となくキラの布団の脇に正座した。そうしなければいけないような気がした。キラも起き上がり――こちらは胡坐をかいているが――厳しい目つきでディアッカを睨むだけで、何も言わない。部屋には金木犀の香りと、沈黙が満ちている。
「…えっと、怒ってる?」
沈黙に耐え切れず、ディアッカが上目使いで聞いた。
「怒ってる。」
取り付く島もない返答である。
「あ〜その、すみません。」
誤りながら、ディアッカは内心ひどくショックを受けていた。
アスランもシンも受け入れるのに、自分は駄目なのか。
「僕が何を怒ってるか分かってる?」
「何をって…やろうとしたことだろ?」
「違うよ!いや、違わないけど違う。」
キラはひどく憤慨している。しかし、違うと言われてもそれならば何故キラが怒っているのかわからない。
「あのね、さっき君が『今日は誰か来るのか』って聞いたでしょ。そんなこと聞かれたら、ああ今日ディアッカ来るのかな〜ぐらい誰だって思うよ。別に僕は君とやるのは構わないの。ちっとも。でも、いきなりな込みを襲う必要はないじゃないか。起こしてよ。それで、いいか?ぐらい聞いてよね!」
ものすごい勢いでまくし立てられて、ディアッカは呆然とした。キラは怒ると目がものすごく怖い。
「あ〜その、ホント悪かったよ。失礼しました。そりゃ、そうだな。寝込み襲うのはいかんかったな。」
「そうだよ!本当に!反省してよね。」
「ああ。ごめんなさ、いぃ。」
謝罪しながら、笑いがこみ上げてきて語尾がかすれてしまった。そうか、やるのは構わないのか。そうかそうか。
「ちょっと、本当に反省してるの?」
「してるしてる。ってかすっげぇ反省しました。」
「ホント?」
「ああ。ホントだ。だから、続き、やってもいいですか?」
正座をした自分より一つ上の兄が、大真面目な顔で聞いてくるのを見て、今度はキラが笑えてしまった。
「よし。許可しましょう。」
偉そうにふんぞり返って言った途端、キラは布団の上に押し倒された。



***
凶暴な気分になったディアッカに、キラはいつもよりほんの少し乱暴に扱われた。若さの有り余っているディアッカが満足するまで、結局三回もつき合わされた。終わったとき、ディアッカが満足そうに自分をきゅっと抱きしめたのが、キラには可愛く思えて、ディアッカの腕を軽くかんだ。
ディアッカは、それを合図のように照れくさそうに笑いながら腕の力を弱め、キラを風呂まで連れて行ってくれた。簡単にシャワーを浴びて戻ると、散らばっていた服も本もきれいに片付けられた、クーラーのかかった涼しい部屋と、行儀悪く寝転がって本を読んでいるディアッカが待っていた。
「リモコンあったの?」
「おお。布団の下に隠れてたぞ。」
ディアッカは、キラにミネラルウォーターを手渡してやる。
「布団の下?なんでそんなところに入っちゃったんだろう?」
キラは器用に首をかしげながら水を飲んだ。
「お前が入れたんじゃねぇのかぁ?」
「なんで?てか、そのニヤニヤ笑いはなんだよ。」
「だってお前、前もシンのパンツ布団の下に隠してたじゃん。布団の下に隠す癖でもあるんじゃねぇ?」
「何ソレ?そんな大昔の事なんか忘れたよ。大体なんで君は勝手に僕の本を読んでるの?そっちこそ、断りなしに何でもやる、礼儀知らずな癖が付いてるんじゃないの?」
ディアッカの手から、本を取り上げる。
「あ!おい返せよ。いいだろ?部屋片付けてやったんだし。」
「それくらい当然でしょ?僕は君たちの相手しなきゃならなくて、部屋の掃除なんてする暇がないんだよ。君は加害者なんだから、掃除ぐらい当然。」
「わかったよ。掃除すんのは当然なんだな?失礼しました。だから、本返せよ。」
「返せぇ?これ一体誰の本だと思ってるの?」
「それは、天才プログラマーのキラ様のものであります!どうか愚かな私めに、そのご本を貸していただけないでしょうか?」
「よろしい。貸しましょう。許可します。」
その言葉に、二人の脳裏には初めてのときが思い出された。一瞬の沈黙の後、顔を見合わせてげらげらと笑った。
 窓からは蝉時雨の声が漏れきて、クーラーの聞いた部屋に、夏がまだまだ続くことを教えていた。






またしてもエロくありません。すみません。
取りあえずディアキラが好きなので、楽しく書きました。
ディアッカ最高!!あとはシンですね!!

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